インプロ業界に顔を出すようになってから、役者などからたまに耳にする言葉がある。

 「ストレート役者からは、インプロ役者は下に見られる」

 ストレートとは、ミュージカルや即興インプロではなく、台本のある舞台、一般的に一番なじみのある“普通の舞台”のことを指す言葉なのだが、つまり、しばしばインプロ役者は台本役者から下に見られるような発言を浴びせられることがあるというのだ。
 例えば「即興なんて練習でやるものでしょ。練習を本番でやってるだけじゃん」というような趣旨のことを言われるんだそうだ。

 これたまに、Twitterとかでも「こう言われた」とか「インプロ役者は言われがち」という文脈で出てくる話でもある。
 今回も、ふとそんな言及に触れたので、ちょっとここに書いておこうと、特にオレのような劇場文化に触れてこなかった人間からの目線で書いたみたいと思う。

 まずオレが言いたいことを結論から身も蓋もない言い方で言うとこうなる。

 「内側の役者からの評価なんてどーでもええやん」

 まぁ役者の人たちは同じ役者の評価は気になるだろう。
 その気持ちは分からなくもない。
 誰しも直接顔を合わせる身近な人間からの評価は気になるだろうし、また同じようなことをしている人、同じような立場の人からの評価が気になるというのは、ある意味自然なことだとは思う。

 でもだからといって、それにとらわれていいものでもない。
 特に舞台っていうものは、外の人たち、お客様に見て貰いお客様に評価されることで成り立つものだ。
 例えばどれだけ内部の評価が悪くてもお客様が観客動員がすごければ舞台として成り立ち次に繋がるわけだし、逆にどれだけ内部の評価が良くてもお客様からの評判が悪くて誰も観に来なかったら、その舞台は公演することすら不可能になるわけだ。
 簡単に言えば、観客ゼロの舞台は、それはただの練習、もしくは身内発表会でしかないとしか言いようがない。
 舞台が舞台である以上、お客様の存在は必要不可欠なのだ。
 ここからして、極論を言えば「他の役者の評判なんてどーでもいい」のである。

 もちろんそれを専門としている役者からの舞台の評価は、いざ公演を開幕する前の段階での判断基準として意味が無いとは言わない。
 その公演が成功するかどうか、それを判断するひとつの基準として役者からの評価を用いるというのは、ごく自然なことだとは思う。

 しかし「ストレートがどうこう」とか「インプロがどうこう」っていうことに関しては、関係ないよね。
 例えばインプロとストレートと両方演じる役者が、両者を比べてその違いなどを論じるのであれば、それは意味のあることだろう。
 オレも先日ちょうど、TRPGとボードゲームの作り手としての違いを論じたところだ。
 でもその一方、両者を比べてどっちが上だ下だと論じることに、なんの意味があるのだろうか。
 いや意味が無いというより、それを供給側が判断できるものではないハズなのである。
 オレが「ボードゲームよりTRPGの方が上だよね」って言ったところで、それに何の意味があるというのだろうか。
 オレが言ったら上下関係が全ての人の共通認識になるのかい?って逆に聞きたくなる。
 どちらが楽しいのかとか、上下関係だとかいうのは、そんなのはあくまでひとりひとりのお客様の価値観の話でしかないし、むしろそれが全てであって、その上でもし上下関係をどうしても付けるというのであれば、市場の結果として売上げなどの客観的データで決めるべきことだ。
 少なくとも、決してひとりの供給側が論評して決まるよう性質の話ではない。

 仮に例えばオレが「ボードゲームよりTRPGの方が上だよね」って言っているとしても、しかしボードゲームはいま結構なブームになっているわけで、何ら意味の無い主張にしかならないだろう。
 また「TRPGに比べてボードゲームはルールが簡単だから、TRPGの準備運動程度の存在だよね」と言ったとしても、ボードゲームを心から楽しんでいる人はかなりの人数いるわけで、その言及にどれだけの意味や意義があるのかを考えても、そんなものはほぼ無いとしか言いようがない。
 実際多くの人がそれを楽しんで、多くの人がそのゲームを買っているのだから
 個人の意見としては主張する分にはまぁもちろん自由だが、しかしその言説がどれだけ受け入れられるのか、そしてその言説が市場全体・業界全体に対してどれだけの意味や意義を見いだせるかを考えたら、やはりこんな上下論なんて全くの無意味だと言えるだろう。

 インプロの役者諸君、もし他の役者からインプロそのものを卑下されるような言葉を投げかけられても、そんな無意味な言葉に反応する必要は全くない。
 そんなのは時間の無駄だ。
 もしそれでも悔しいという気持ちがあるのであれば、それは「お客様をたくさん呼ぶ」「公演を成功させてお客様からの評価を得る」という結果でもって見返せば良いのだ
 もし「インプロよりストレートの方が観客動員数が多い」と言われたのであれば、全力で悔しがりなさい。
 いつか見返してやるぞと闘志を燃やしなさい。
 そして、それ以外のことは気にとめる必要など一切無いわけだ。
 ストレート役者がインプロを見下しても、自分の舞台がガラガラならその言葉に何の意味も無いのと同時に、ストレート役者の言葉に憤りを感じて反論をしたところで、しかし自分の舞台がガラガラだったらやはりその反論に全く意味は無いのであり、悔しいならむしろ行動で、結果で、見返せば良いのだ。
 それだけのことなのである。

 「顔を外に向けなさい」ということである。
 そもそも役者とか舞台とか公演とかは、全てはお客様に対する行為ではないか。
 お客様に観てもらうために役を演じているわけではないか。
 すべてはそれを観て評価してくれるお客様のために演じているのだから、内の評価は全て捨てて良いとまでは言わないが、しかし外の評価の方が絶対的に大きいし正しいということはハッキリと言っておきたい。

 すべては外の人に向かって、お客様の顔を見て、一番はそこを大切にして、役者をやりなさいって話である。